ラパマイシン(Rapamycin)は抗生物質で1970年代のはじめにイースター島(現地語名はラパ・ヌイ)で発見された微生物が作るものです。今回この抗生物質について書くのは、ラパマイシンを高齢マウス(人間では60歳相当)に飲ませると数十パーセント寿命が延びることがほぼ確実だからです。

ラパマイシン Wiki

2009年に行われた実験ではラパマイシンがマウスの寿命にどのような影響を与えるかを確認するものでした。というのはラパマイシンは単細胞生物や昆虫の寿命を延ばすことがすでに当時確認されていたので、もっと複雑な哺乳動物についても実験をすることになったのです。当初マウスが比較的若い時期にラパマイシンを餌と共に投与する予定でした。ところが餌にラパマイシンを混ぜるのに手間取り、実際には実験開始時にはマウスが生後20か月にもなってしまったのです。人間では60歳前後に相当するということです。

当時、生物の寿命に介入するには幼い時からの「治療」が必要だと研究者の多くが考えていました。ところがこの出だしにつまずいた実験で驚くべきことが分かったのです。成熟したマウスの寿命が延びたのです。28%から38%も伸びたというのです。(上記Wikiにも記載あり)これはとても重要な発見でした。というのも、人間に対してこのような実験(治験)をする場合、子供にこの薬を投与し、100年間に渡る観察をするわけにはいきません。倫理的な問題だけではなく、結果が出るまでに100年もかかるというのは現実的でないからです。しかし一方で70歳を過ぎた高齢者に対してまずは安全性を確認し、治験に入るというのはかなり現実味があります。

ラパマイシンが寿命を伸ばす仕組みを説明する前にラパマイシンが現在どのような薬として利用されているかを説明します。

ラパマイシンは現在いくつかの疾患に対して治療効果が認められていて、処方箋があれば患者に投与されます。その代表例が腎臓移植後の免疫抑制剤としての利用です。腎臓を移植後、患者は異物(他人の腎臓)への拒絶反応を防ぐために必ず免疫抑制剤を処方されます。ラパマイシンは腎移植後の免疫抑制剤としてとても優れたものです。ラパマイシンは他の抑制剤と比べ腎臓の機能を阻害する副作用が殆どないという特徴があります。(ちなみに腎移植後初日に5mg, その後毎日1-2mgのラパマイシンを飲みます)安全性に優れた免疫抑制剤という評価があるのです。

腎移植の免疫抑制剤としての実績はかなりありますが、臨床医からはある意味不思議な報告が数多くありました。それは「どうも免疫抑制剤としてラパマイシンを使うと、患者がガンを発症しない」「循環器系の疾患もすくない」というものです。通常免疫を抑制するとガンへの攻撃力も弱りますからガンが成長する確率が増えます。実際に他の多くの免疫抑制剤では感染症だけでなく、ガンの発症が有意に増加します。ところがラパマイシンではどうもその逆の効果があるようだというのです。

(つづく・・次回はラパマイシンでなぜ寿命が伸びるかを説明します)

By MN

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