何年か前、ドイツとアメリカから二人の有名な技術者がWaffleCell関連のイベントに参加するために来日しました。その時彼らがいくつか驚いたことがあります。まず日本のエレベーターが揺れないことです。日本で生活をしているとわからないでしょうが、海外のエレベータはうるさいです。揺れます。2018年にドイツに出張したときに滞在したホテルのエレベーターには驚きました。揺れてうるさいのです。

次に彼らが驚いたのは日本のインターネットです。詳しく説明します。

ドイツ出張では多くの技術者と話をする機会がありました。そこで二つ面白い話を聞きました。一つ目は遡ること数年前、日本のテレビ番組でドイツの田舎では携帯電話が使えないと報道されたらしいのです。それがドイツで大きく取り上げられて政府がそれをきっかけに動き出したというのです。にわかに信じられないような話ですがNextcloudの開発者であるドイツ人、カーリーチェックさんから聞いたのでガセネタではないと思います。そして別の技術者から聞いた話です。彼はある学校のネット環境を整備する仕事をしたのですが、導入したインターネット回線は64kbのメタル回線だったそうです。日本では100mbが当たり前ですので、その速度は日本の1000分の1以下です。

アメリカのサンフランシスコから来たもう一人の話も面白かったです。彼、エルンストさん(有名なOpenIDの規格を作った人)は私と同じように家庭で使えるサーバーOSを開発しています。当然自宅にはサーバーがあるのですが、使える回線が日本と比べて非常に遅く、さらに料金もとても高いと嘆いていました。ちなみに彼の自宅はApple本社から数キロのところにあります。

何れにしてもカーリーチェックさん、ヨハネスさん共に日本のインターネット環境のすごさに感嘆していました。特に上りと下りの速度は対称である点にびっくりしていました。上下対象というのは、ダウンロードの速度とアップロードの速度が同じという意味です。(実際には日本の場合実測すると上りの方が速いです。理由は上りはあまり使われていないので。)

ところがです。日本の回線は、はたして有効利用をしているかというと少し疑問です。回線の上りをほとんど利用していないからです。テレビ会議が最近は普及しているので会議をしているときには自分の映像をクラウドへ送る、すなわち上りを使うでしょう。しかしそれでもほぼ使っていないに等しいです。それだけではありません。例えば日中、自宅に入っている回線はほとんど使われていないはずです。実は日本中に張り巡らされている回線の多くは、普段あまりデータが流れていないのです。

にもかかわらずネットの接続が遅くなることがあります。そしてクラウド業者はデータセンターや回線の増強に忙しいです。何か矛盾があります。

交通渋滞を例に説明します。仮に東京都内でどこへ移動するにも必ず首都高を一度は通らなくてはいけないとしましょう。板橋区から隣の北区へ移動するのにわざわざ一度首都高5号線にのり、遠回りをしてすぐ近くの北区へ移動する・・・ありえません。当然私たちは一般道を利用しています。ところがインターネットの場合、ありえないことをしているのです。データを取得するのに必ず巨大企業が管理するクラウドにアクセスしています。日本にいるのに場合によっては海外を経由しています。これはいつも高速道路を使っているようなものです。ですから日本中に張り巡らされている回線はあまり使わていないのに、クラウドへは限界ぎりぎりのデータが流れているわけです。

仮にすべてのインターネットユーザーが自分のデータを自宅のWaffleCellに保存したとしましょう。出先から自分のデータにアクセスする場合、データは自宅の普段あまり使っていない回線、それも「上り」を使います。自宅でデータを見たい場合はインターネットを通ることすらないです。自宅のWaffleCellでテレビ会議を主催する場合もデータはクラウドを通りません。

クラウド、すなわち集中は私たちのインフラを有効利用していません。有効に使っていないということはどこかで誰かがコストを余計に負担しているということでもあります。

だから分散なのです。

By MN

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